顧問先向け かんたん解説
社会保険(健康保険・厚生年金)では、同じ「賞与」という名前でも、1年に何回支給するかで保険料の計算方法と届出が変わります。また、インセンティブ(歩合)は、1か月ごとに精算するか、2か月以上の期間で精算するかによって、社会保険だけでなく、給与の支払い方や残業代の計算まで扱いが変わります。このページでは、その違いを早見表と根拠条文付きで確認できます。
01 回数で分かれる2つの扱い 02 回数の数え方 03 年4回以上の計算方法 04 年3回以下の計算方法 05 インセンティブと精算期間 06 精算期間別 早見表 07 設計・変更時の注意点 08 よくある質問 09 チェックリスト 10 根拠条文・通達
名前が「賞与」でも、社会保険では年4回以上なら毎月の給与と同じ扱いになります。
法律は、労働の対価として受けるもののうち「3か月を超える期間ごとに受けるもの」を賞与、それ以外(臨時に受けるものを除く)を報酬と定めています。通達はこれを支給回数に置き換え、年4回以上支給されるものは報酬、年3回以下のものは賞与と整理しています。
用語の整理: 通達では、年4回以上支給されて報酬扱いになる賞与を「賞与に係る報酬」、毎月支給される給与を「通常の報酬」と呼びます。以下、このページでもこの呼び方を使います。
判定の基準日は毎年7月1日。規程の定めか、直前1年間の実績のどちらかで4回以上なら報酬になります。
毎年7月1日現在で、次のどちらかに当てはまる場合に「報酬」(賞与に係る報酬)になります。
| 判定方法 | 内容 |
|---|---|
| ア 規程で判定 | 給与規程などで、年間を通じて4回以上支給することが客観的に定められている |
| イ 実績で判定 | 7月1日前の1年間に、実際に4回以上支給されている |
| 場面 | 数え方 |
|---|---|
| 名称が違う手当が複数ある | 名称ではなく、同じ性質のものごとに回数を数える。規程や賃金台帳から性質が異なることが明らかなものは、別々に判定する |
| 賞与を分割して支給した | 会社のやむを得ない事情で、規程や慣例によらず例外的に分割支給した場合は、まとめて1回と数える |
| その年だけの特別な賞与 | 過去数年にわたって支給がなく、その年に限り特別に支給された賞与は回数に入れない |
| 年度の途中で回数を変更した | 7月2日以降に回数が変わっても、次の定時決定による標準報酬月額が適用されるまで、扱いは変わらない |
| 手当・賞与を新設した | 年4回以上支給する定めであっても、次の定時決定による標準報酬月額が適用されるまでは「賞与」として扱い、賞与支払届を提出する |
| 「支給することができる」という規定 | 必ず支給されるとは限らない定め(「支給することができる」「成績上位者のみに支給する」など)は、新設時は「賞与」として扱い、次の定時決定の際に支給実績で判定する |
切り替わりのタイミングに注意: 回数を変更・新設しても、すぐに扱いが切り替わるわけではありません。切り替わるのは、次の定時決定(7〜9月の随時改定を含む)による標準報酬月額が適用されるときです。それまでは従前の扱いを続けます。
「支給することができる」旨の規定の扱いは、令和5年6月12日事務連絡 Q&A の Q.8 によります(厚生労働省 法令等データベース)。
1年分を12か月にならして、毎月の給与と合算します。
※ 新設や回数の変更で新たに報酬扱いになった最初の年は、実績の合計ではなく、新しい規程どおりに1年間支給していたと仮定した額を12で割ります(支給実績が1年分に満たなくても、実績分だけを12で割るわけではありません)。
| 項目 | 金額 | 説明 |
|---|---|---|
| 毎月の給与(通常の報酬) | 300,000円 | 4・5・6月の平均 |
| 四半期ごとの賞与 | 300,000円 × 4回 = 1,200,000円 | 7月1日前の1年間の合計 |
| 賞与に係る報酬の月額 | 1,200,000円 ÷ 12 = 100,000円 | 毎月の給与に上乗せする額 |
| 報酬月額 | 400,000円 | この額をもとに標準報酬月額が決まり、9月から翌年8月まで適用される |
賞与支払届は提出しません。支給した月に賞与としての保険料を別に計算することもありません。
算定基礎届(定時決定)に、12で割った額を加えて届け出ます。届書の備考欄に賞与に係る報酬の額などを記載します。
賞与に係る報酬の額が変動しても、それを理由とする随時改定(月額変更届)は行いません。翌年の定時決定で反映します。昇給などで月額変更届を出すときは、算定済みの賞与に係る報酬の月額をそのまま加算します。
入社した人の扱い: 年4回以上の賞与がある会社に入社した人は、資格取得時の報酬月額に、同じ業務で同じような賞与を受ける人の「賞与に係る報酬」の平均額を加えます。
一般的な夏・冬の賞与や決算賞与は、こちらの扱いです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 保険料の基準額 | 標準賞与額(支給した賞与額の1,000円未満を切り捨てた額) |
| 健康保険の上限 | 年度(4月1日〜翌年3月31日)の累計で573万円 |
| 厚生年金の上限 | 1か月あたり150万円 |
| 届出 | 賞与支払届を、賞与を支払った日から5日以内に提出 |
| 毎月の保険料への影響 | なし(標準報酬月額の計算には含めない) |
1か月ごとに精算するか、2か月以上の期間で精算するか。ここが分かれ目です。
賃金は毎月1回以上、決まった日に支払うのが原則です。ただし、「1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給・能率手当」は、賞与に準ずるものとして、この原則の例外になります。2か月以上の成績で計算するインセンティブは、これに当たります。
同じく、残業代(割増賃金)の計算基礎からは「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」が除かれます。一方、1か月ごとに精算する歩合は除外の対象ではないため、残業代の計算に含めます。歩合部分は、その月の歩合給の総額をその月の総労働時間で割って1時間あたりの額を出す、という専用の計算方法になります。
毎月支給されるものは「通常の報酬」、それ以外は年間の支給回数で「賞与に係る報酬」か「賞与」かを判定します。したがって、2か月ごと(年6回)や3か月ごと(年4回)に精算して支給するインセンティブは報酬(12で割って月額に上乗せ)、4か月ごと(年3回)や半年ごと(年2回)のインセンティブは賞与(賞与支払届)になります。
歩合率・単価を変えたとき: 毎月の歩合の金額が成績で上下するだけでは随時改定(月額変更届)の対象になりませんが、歩合率や単価そのものを変更した場合は固定的賃金の変動に当たります。変更後3か月の平均で標準報酬月額に2等級以上の差が出れば、月額変更届が必要です。
⚠️ 二次情報: 日本年金機構「随時改定(月額変更届)」の案内による(固定的賃金の変動の例として「請負給、歩合給等の単価、歩合率の変更」を掲げる)。日本年金機構ウェブサイト(2026年9月30日確認)
インセンティブ・賞与を「何か月ごとに精算して支給するか」で、各制度の扱いを一覧にしました。
| 精算・支給の間隔 | 年間回数 | 社会保険健康保険・厚生年金 | 毎月払いの原則労基法24条 | 残業代の計算基礎労基則21条 | 平均賃金・雇用保険の賃金日額労基法12条・雇保法17条 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1か月ごと | 12回 | 通常の報酬毎月の給与として算定 | 毎月支払う | 含める | 含める |
| 2か月ごと | 6回 | 賞与に係る報酬年間合計÷12を月額に上乗せ | 例外にできる | 算入しない | 含める |
| 3か月ごと(四半期) | 4回 | 賞与に係る報酬年間合計÷12を月額に上乗せ | 例外にできる | 算入しない | 含める「3か月を超える期間ごと」に当たらない |
| 4か月ごと | 3回 | 賞与賞与支払届 | 例外にできる | 算入しない | 除く |
| 6か月ごと(半期) | 2回 | 賞与賞与支払届 | 例外にできる | 算入しない | 除く |
| 1年ごと | 1回 | 賞与賞与支払届 | 例外にできる | 算入しない | 除く |
※ 社会保険の判定は、新設・変更の直後は 02 のとおり次の定時決定まで切り替わりません。
※ 労災保険・雇用保険の保険料の計算では、賞与も含めて労働の対価として支払うものはすべて賃金に含まれます(労働保険徴収法第2条第2項)。精算期間による違いはありません。
制度ごとに境目が違います。 労働基準法の毎月払い・残業代は「1か月を超えるか」、平均賃金や雇用保険の賃金日額は「3か月を超えるか」、社会保険は「年4回以上か」が境目です。2か月ごと・3か月ごとの精算は、制度によって扱いが分かれる点に注意してください。
名称や支払い方だけを変えても、扱いは変わりません。実態で判断されます。
| 場面 | 取り扱い |
|---|---|
| 半期のインセンティブを、毎月に分けて支払う | 1か月を超える期間の成績で計算したものを分割して支給しても、「通常の報酬」にはならない。社会保険では「賞与に係る報酬」(12で割って月額に上乗せ)として扱う |
| 毎月定額の手当と、半年ごとの手当が同じ名称 | 給与規程または賃金台帳で2つを区分していれば、毎月分は「通常の報酬」、半年ごと分は「賞与」。どちらでも区分されておらず客観的に分けられない場合は、全体が「賞与に係る報酬」になる |
| 1か月ごとに計算できる歩合を、支払いだけ2か月分まとめる | 毎月払いの例外になるのは「1か月を超える期間にわたる事由によって算定される」ものに限られる。毎月の成績で計算が完結する歩合は、支払時期だけをまとめても例外には当たらず、毎月支払う必要がある |
| 賞与を年3回から年4回に変える(またはその逆) | 次の定時決定による標準報酬月額が適用されるまでは、従前の扱いが続く。切り替え時期を給与担当者と共有しておく |
| 就業規則・給与規程 | 賞与やインセンティブなど臨時の賃金等の定めをする場合は、常時10人以上の事業場では就業規則に記載が必要。精算期間・計算方法・支給時期を規程に明記しておくと、上記の判定もしやすくなる |
規程と賃金台帳を整えておくことが近道です。 社会保険の判定は「規程でどう定めているか」「賃金台帳でどう区分しているか」をもとに行われます。性質の違う手当は名称と欄を分け、精算期間と支給回数を規程に書いておくと、調査の場面でも説明がしやすくなります。
就業規則への記載は労働基準法第89条第4号(臨時の賃金等の定めをする場合)によります。
ご相談の多い場面をまとめました。
Q. 夏・冬の賞与(年2回)に加えて、決算賞与を1回出します。年4回にならなければ「賞与」のままですか。
A. 合計3回ですので、すべて「賞与」の扱いです。なお、回数は同じ性質のものごとに数えますが、いずれにしても年3回以下であれば賞与支払届で処理します。
Q. 夏・冬の賞与のほかに、四半期ごとの業績手当を出しています。
A. 性質の異なるものは別々に判定します。規程や賃金台帳で区分されていれば、夏・冬の賞与(年2回)は「賞与」、四半期ごとの業績手当(年4回)は「賞与に係る報酬」として12で割って月額に上乗せします。
Q. 今年から四半期インセンティブを新設しました。最初から報酬として扱いますか。
A. いいえ。新設した場合は、次の定時決定による標準報酬月額が適用されるまでは「賞与」として扱い、支給のたびに賞与支払届を提出します。次の定時決定の際に、規程や支給実績から改めて判定します。
Q. 年4回以上の賞与を支給した月に、賞与支払届は必要ですか。
A. 不要です。報酬として標準報酬月額に反映されるため、賞与としての届出・保険料計算は行いません(新設直後など、まだ「賞与」として扱っている期間を除きます)。
Q. 2か月ごとに精算するインセンティブは、残業代の計算に入れなくてよいですか。
A. 2か月の成績をもとに計算する仕組みであれば、「1か月を超える期間ごとに支払われる賃金」として割増賃金の計算基礎に算入しません。ただし、実際には毎月の成績だけで金額が決まるものを、支払いだけ2か月に1回にしている場合は別です。計算の仕組みが規程でどう定められているかで判断します。
Q. 毎月の歩合給が月によって大きく変わります。その都度、月額変更届が必要ですか。
A. 成績による金額の増減だけでは不要です。歩合率や単価そのものを変更したときは固定的賃金の変動に当たるため、2等級以上の差が出れば月額変更届が必要です。
自社の賞与・インセンティブを、次の順で確認してみてください。
このページの内容は、次の法令・通達の原文に基づいています(2026年9月30日時点)。
| 法令・通達 | 内容 |
|---|---|
| 健康保険法 第3条第5項・第6項/厚生年金保険法 第3条第1項第3号・第4号 | 「報酬」と「賞与」の定義(3か月を超える期間ごとに受けるものが賞与) |
| 健康保険法 第41条・第43条 | 定時決定・随時改定 |
| 健康保険法 第45条/厚生年金保険法 第24条の4 | 標準賞与額の決定と上限 |
| 健康保険法 第48条/同法施行規則 第27条 | 賞与支払届(支払日から5日以内) |
| 昭和53年6月20日 保発第47号・庁保発第21号(局部長通知) | 年4回以上の賞与は報酬。回数の数え方、12分の1の算定方法 |
| 昭和53年6月20日 保険発第72号・庁保険発第9号(課長通知、平成30年7月30日 保保発0730第1号・年管管発0730第1号で改正) | 分割支給の扱い、同一性質ごとの判別、新設時の扱い |
| 令和5年6月12日 事務連絡(Q&A) | 手当の区分の事例、新設時の賞与支払届、「支給することができる」規定の扱い |
| 労働基準法 第24条第2項/同法施行規則 第8条 | 毎月払いの原則と、1か月を超える期間で算定する手当の例外 |
| 労働基準法施行規則 第19条第1項第6号・第21条 | 歩合給の割増賃金の計算、割増賃金の基礎から除外する賃金 |
| 労働基準法 第12条第4項/雇用保険法 第17条第1項 | 平均賃金・賃金日額から除く「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」 |
| 労働基準法 第89条第4号 | 臨時の賃金等の就業規則への記載 |
| 労働保険の保険料の徴収等に関する法律 第2条第2項 | 労働保険料の計算における賃金の定義(賞与を含む) |
法令は e-Gov 法令検索、通達は 厚生労働省 法令等データベース で原文を確認しています。随時改定における歩合率変更の扱いのみ、日本年金機構ウェブサイトの案内(二次情報)によります。